ふたつの研修会に想う

あっという間に8月、お陰様でと言うべきか、毎日毎日私にとって“きちんと患者さんの話を伺って診療する”にはこれで一杯の数の患者さんがいらしてくださる。
こんな私を頼って来院される患者さんがおられることは本当に有り難いことだと思う。そんな患者さんのため、そして自分自身のレベルアップと知識欲充足のため忙しい毎日の中、できるだけ時間を作って研修会に参加することにしている。

7月には、歯周病治療の大家・元奥羽大学歯学部教授である岡本浩先生の
研修会を受講した。実は私は若かりし頃、歯周病の外科手術を学ぶために
岡本先生の月に二日間×3ヶ月のコースを受講したことがあった。

私たちの大学時代は、今の歯科大生とは比べ物にならないくらい学生時代に
患者さんを実際に治療させていただき、多くのことを学ばせていただいた。
それでも当時は「歯周病」そのものについての研究がまだそれほど進んでいなかったから歯周病の手術なんて一体どうやればよいのか分からなかった。
(今、その頃の文献や自分で作ったノートを見直すと、現在ではほとんど誰も主張していないような学説がまかり通っていたりするのが分かる)
そんな時代であったから、歯周病の手術を勉強するのに卒業後にどこかの大学の研究室に入って学ぶにしても、かなりその研究室を選ばないと、トンデモ学説トンデモ手術を学ぶことになったかも知れない(もちろんこれは今になったから分かること)。
そのような時代、スウェーデンのイエテボリ大学という近代歯周病治療のメッカに
留学された岡本先生ご自身がお若くて“俗説だらけの日本の歯周病治療を
改善したい”という信念に燃えてエネルギッシュに研修会を開かれていたころに
友人から「すごく良い研修会だから」と勧められて参加できたことはラッキー!
だったと思う。
しっかりとした科学的なデータによって裏付けられた多くの論文をひとつずつ
検証しながらまさに目から鱗が落ちる思いで歯周病という病気の基礎を知ることができたし、人間の顎に似ているということで採用されたらしい豚の下顎を使った
歯周病外科手術の実習は毎回「〇〇法(手術の方法)って、こういうことだったのか!」と驚きと納得の連続であった。帰路の電車の中、つり革につかまった自分の
手がなんとなく豚肉臭いのが、ちょこっと困ったが。

今回の研修会は、卒業直後の若き研修医からキャリアを積んだ歯科医まで
幅広い受講者を対象としたものだったが、私が受講した頃からの
普遍的な部分と最新の知見の両方を学ぶことができて大変有意義であった。
日常の治療に追われる中で忘れがちであった“科学に基づく”歯周病の診断や
治療をもう一度思い起こすことができ、とても新鮮な気分になった。

私のホームページをご覧になって「自分は歯科心身症なのではないだろうか」と
来院される患者さんも増え、正にその分野は私の使命だと感じているが、
私は基本的には下町の町医者であるから、歯周病という“毎日出会う
特殊でない病気”を治して患者さんに期待に応えるのも勿論大切なこと。
かつて自分に歯周病治療の基礎を叩きこんでくださった
岡本先生の懐かしくも力強い講義は大変良い刺激になった。

休憩時間、岡本先生に
「私、20年数年前に先生の三ヶ月のコースを受講したことがあるのです」
            と申し上げた。
「どこだった?場所は」
「え~~と、新宿だったと思います」
「じゃ、20年前じゃないですね。
 新宿で開催されていたのは30年くらい前ですから。ははは」。

研修会からの帰宅途中に数えてみた。
おそらくは、27年くらい前だったと思う。

もうひとつの研修会は、8月初旬、心身歯科医学分野の豊福先生の研修会
だったが、これは長くなりそうなので、次回(いつになることやら)。