8020運動をご存知ですか?

「清水先生、8020っていうのがあるでしょ?私の歯は今何本ありますか?」
「先生、私は8020を達成できるでしょうかね?」
そんな質問を受けることがあります。

皆さんは8020運動(ハチマル ニイマル 運動)という用語をお聞きになったことは
ありますか?
ごく簡単に言ってしまえば、平成元年より当時の厚生省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。

20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足できると言われています。
私もいち会員である日本歯科医師会は、国民の口腔内の健康を促進させるために数々のキャンペーンを行って来ましたが、中でも「8020運動」は“8020”という
数字がご高齢の方にもわかりやすいこともあり、また目標も具体的なので、
もっとも浸透し成功しているように感じます。
私は現在は日本歯科医師会の下部組織である神奈川県歯科医師会の分科の神奈川区歯科医師会で学校歯科という分野の委員をしていますが、以前には公衆衛生委員を8年ほどやっていました。6月の虫歯予防デイのころになると区役所で無料歯科健診をやったり10月の神奈川区民祭りでは反町公園で歯科相談やフッ素塗布、歯ブラシを配ったりしていました。8020行事も公衆衛生委員が中心となって
行われています。
私の記憶ではその頃は、8020運動の一環として「高齢者良い歯のコンクール」が
開催されておりまして、70歳代の部、80歳以上の部に分けて自分の医院から歯の良い方を推薦する方式で行われ、中でも群を抜いて歯の良い方は最終的に県の歯科医師会での決勝大会まで進む、、、、ということだったと思います。
現在はコンクール形式ではなく、“8020表彰”といって8020を達成された方を自院から推薦し、表彰の記念品を全員に神奈川区歯科医師会からお贈りするというシンプルなものになっています。(期間は毎年6月~11月)

さて、昨年に続き今年もまず6月期に三人の患者さんを推薦することができました。いずれも長年当院に通ってきてくださっている患者さんで、そのうちのお一人は、現在の場所で私が開業する前の、私が個人的に“旧清水歯科”と呼んでいるクリニックの頃からのおつきあい。昭和61年から約27年という年月、私がその方の
健康に関わらせていただいた方です。
数日前に歯科医師会から記念品が届きましたので、昨日それを持ってご自宅を訪問
させていただきますと、皆さん本当に喜んでくださり(ご自分の口腔ケアの努力の
賜物ですから当然ですけれど)
「清水先生のお陰で8020を達成できました」などとおっしゃってくださいました。そう言っていただくのは歯科医冥利に尽きるのですが、優柔不断な私は
確固たるアドバイスをして患者さんを導いたわけでは全然なく、患者さんの
熱心さと努力に感心していただけですので、心底恐縮しました。
でも、とても嬉しかったです。

実はーこれは大変に反省しているのですがー昨年表彰された方には、記念品を
清水歯科まで取りに来ていただいてしまったのです。それでも患者さんは
喜んでくださいましたが、本当に礼儀を欠いたことをしました。
ということで、今年は町内会手製の素晴らしい地図を片手に患者さんのご自宅を
探しながらの短い旅をしました。8020達成患者さんのご自宅に行くまでの道すがら、「あ、●●さんのご自宅ってここなんだあ」「あ、▲△さんはここ」と
次々に私のクリニックに通われている患者さんのご自宅の前を通りながら、
それぞれの患者さんとの関わりを思い出し(よい思い出も、申し訳ない気持ちで
いっぱいな思い出も)、あらためて私の生活、私の人生を支えてくださったのは
この方々であることを痛感しました。

私の歯科医師としての最高の恩師は、東白楽駅前で開業され、約二年前に引退された川俣浩先生です。先生は常々、「人生の目標はヒトのお役にたつこと」と
おっしゃっていました。未熟な私は先生の域にはなかなか到達できそうにありませんが、昨日の六角橋ショートトリップはしみじみとした良い体験でした。
今日も今度は篠原方面の患者さんに記念品を持ってゆこうと思っています。

そして、7月期の候補者が既にお二人いらっしゃいます。
その方たちとも、表彰記念品を介して人間対人間のコミュニケーションをするのが
今から楽しみです。

実は先週、ついに当院でもデジタルレントゲン装置を入れまして、慣れない操作に
スタッフとともに汗をかきながらもその画像の鮮明さに驚き&喜びました。
ある40代の男性患者さんの(その方も27年くらいのおつきあいです)写真を
説明する際に、あまりに画像が綺麗なので嬉しくなって
「●○さんが60歳になった時にも歯や歯を支える骨がこのままだといいですね」と言ってしまい、、、、、
一瞬「あっ!」と思いましたが、すぐに「セーフ」だとも思いました。
その方が60歳になった時には、おそらくまだ私は歯科医をやれているだろうから、
今撮影した画像を元に経過を説明できるだろうからです。でも、
その方が8020を達成されるころには(たぶん達成されます)、私は残念ながら
このかたを推薦することはできないんだな、、、、ちょっと寂しくなりました。

今回は8020の話題でしたが、私の信条は「与えられた環境でベストを尽くす」
です。残念ながら8020を達成できそうにない患者さんもおられます。
いや、むしろそういう方のほうが多いかもしれません。
その方たちの口腔の状態を少しでも良い方向に進め、ご高齢になっても
美味しい物を召し上がれるように、微力ながら精進してゆきたいと思います。

「患者さんから学ぶ」これは母校の放射線学の教授であった東先生が、
自著にサインするときに書いてくださったお言葉です。
先日放映された「アド街ック天国」で私の隠し通してきたアナザーサイドが
広く知れわたってしまいましたが、そんな私だからこそ、多くの尊敬する先輩の
教えや患者さんとのさまざまな(くどいようですが、良い思い出も、申し訳ない
思い出も)関わりをこれからの診療に生かしていきたいと思います。