●食後30分間、ブラッシングを避けることの是非

数年前、あるテレビ番組で「歯のダメージを防ぐため、少なくとも食後30分以上経ってから歯磨きをしたほうがよい」と放映され、私のクリニックの患者さんからも、校医をしている小学校や幼稚園、保育園でもそれについて質問されたことがあります。

私の院長ブログでも一昨年の9月に「学校歯科医と養護教諭との勉強会」でそれについて触れています。


「歯界展望」という歯科専門誌の2014年10月号で、「酸蝕症とブラッシング」というタイトルの特集が組まれ、私も知識をリニュアルしました。きっと患者さんにも有益であろうと推測される内容を簡単にご紹介いたします。

 

「酸蝕症」というのは、酸によって歯が溶けている状態の総称で、以前は、メッキ工場などで使用する強い酸性の薬物によるものが問題視されていましたが、現在では、日常的な食品による酸蝕症が話題になっています。


以下、「歯界展望」記事からの抜き書きに私の意見を書き加えて列挙します。


●柑橘系の丸かじりを日常的にするのは避ける(その果物の酸によって歯が溶けるので)、酸性の飲食物を摂取したあとは、すぐに口をゆすぎ、直後のブラッシングは避けたほうがよい。


●うがい薬のイソジン液(イソジンガーグル)のpH(酸性度)は2.0~2.5で、これはコーラと同じです。

恥ずかしながらこれは私も知りませんでした。

コーラはいかにも歯に悪そうですが、口腔内の消毒剤のイソジンが歯を溶かすなんて、、、、ということはイソジンでうがいした直後のブラッシングは避けたほうがよいでしょう。


●歯のエナメル質が溶け出すpHは5.5で、それより高いpH(歯を溶かさないpH)の飲料をいくつか挙げると、麦茶(6.5)、牛乳(6.8)、豆乳(7.3)。

当院に来院された患者さんには、飲食物の酸性度一覧表をお渡ししています。


因みに、象牙質の溶け出すpHは6.7です。健康な歯であれば、象牙質はエナメル質で覆われているので、エナメル質が溶け出すpHを考慮しておけばよいのですが、

過度なブラシングや加齢などにより歯肉が退縮(例えば下の歯の場合は、歯肉が下に下る)し、歯の根っこ(歯根)が見えてくると、歯根は象牙質でできているので、より溶けたり、すり減りやすくなると言えるでしょう。


●酸蝕症を作りやすいのは、酸性飲食物の“ちびちび飲み・だらだら飲み”です。

運動時のスポーツ飲料(例・ポカリスエットはpH3.5)など、摂取を避けられない状況下では、ストローを使用するなど、酸性飲料が直接歯に触れない工夫が必要。


●酸性飲料を摂取した直後のブラッシングは顕著な摩耗(歯のすり減り)を示し、

30分後、60分後でもその傾向があることから、研究データ上は、60分後の歯ブラシが推奨されているが、現実的にはそれは難しいし、食後ブラッシングせずに60分間そのままにしておくことは(酸蝕症は避けられても)虫歯を作ってしまう危険性が増す。


●日常における一般的なセルフケアには、水でのうがいや洗口による「酸の希釈(酸をうすめる)」や、お茶・牛乳などの中性に近い飲料や食品の摂取による「酸の中和」が推奨される。

重炭酸(重曹)による洗口は有効ですが、現実的には、フッ素入の洗口液の使用が良いのではないでしょうか。


●多くの酸性飲食物のpHが3~4であるのに対し、胃液のpHは1~2と明らかに低い(酸性度が高い)

よって、酸蝕症に胃液の逆流にも関係しているのではないかと言われている。


●「酸蝕性食品」という用語には、現時点では明確な定義はないが、この特集では、単に酸性であることだけではなく、総合的に酸蝕症を引き起こす力の強い食品・飲料として扱う。

食品に関しては、その酸性度だけでなく、酸性pH緩衝能(専門的なので説明は省きます)、カルシウム・リン酸含有比など多くの要素を考える必要がある。


現時点の結論としては、、、、


「食後の歯磨きについては、虫歯予防の見地から、これまで一般的に推奨されて

きたとおり、食後の早い時間内に行うことをお勧めします。ただし、酸性度の強い飲食物を摂取した場合には、酸蝕(酸によって歯が溶けること)に留意して歯磨きをすることをお勧めします」


“留意”については、なるべく酸性飲料の摂取を控えること、プラーク(歯垢)を

キレイに落としておくことも大切です。その上で、水やお茶やなどで口をゆすいでから歯ブラシをするというような事だと思います。


なお、虫歯のなりやすさ、歯根の露出具合などは、患者さんそれぞれ違いますので、それについてはクリニックで個別に対応してゆくしかないと思います。


以上、「酸蝕症」についてでした。